常闇、魂揺蕩う果てに……
彼女と接しているからだろうか。
僕には狐たちがなつくようになった。
…日本三大妖怪の一角、玉藻前
この名を知る人はおそらく何らかの形や媒体で伝説を知っているものだと思う。
率直に言おう。
僕は始めに玉藻前という存在を指す『言葉』そのものが好きになり、次第に玉藻前『自身』を愛した。
■九尾を求めて
初めは単に伝説を求めての事だった。
伝説がもし、まさか史実であるのならば是が非でも。半信半疑ながらその力を我が物にしたいと思ったからこそ訪れた。
■別世界を思わせる静けさ
訪れたそこは、まるで幻想的な場所であった…。
そうしていくうち僕は1年以上の間、月1で殺生石を、2週1回の頻度で玉藻稲荷神社へ。
桜舞い踊る日も、全身へ叩きつける嵐の日も駆け抜け、雪降る夜にもバイクへ跨がり馳せ参じた。
勿論、時折馬鹿な事をしていると自覚したものの、されど想いはいっそう加速していった。
■求めた伝説の真相
遂に僕は彼女が伝説などではなく……
とても聡明でロマンスに溢れた、たった一人の女性であることを知った。
夏草生い茂る山の道、白い魂の幻を見た。
御神酒をその場で乾杯すれば、狐の鳴き声をもって答えた。
彼方輝る星に照らされ、両側を山に挟まれ。
見下ろす限り見える人々の生活の明かりと対照的に、僕はここに招かれたのだと。
そして…僕は自分がいつのまにか彼女を好きになっていたことを自覚したのだった。
■後日
そのあと。
僕には狐がなつくようになった。
狐にはきっと見えているのだろう。
伝説に語られる悪霊(九尾の狐)ではない、人間に寄り添い、人間が寄り添った彼女が。